往年の名器!?ヤマハMT8X(マルチカセットレコーダー)について

今回、私が所有している機材の中の一つ「ヤマハMT8X」(MTR)の紹介をしたいと思います。

今やコンピューターソフトを駆使して楽曲制作するのが当たり前の時代、もはや過去の産物として葬られようとしている(すでに葬られている?)カセット式多重録音機材でございます。

主に80年代においていわゆる宅録ミュージシャンの間ではカセットで楽曲、ボーカルを多重録音できる必需アイテムといって過言ではないものなんですよね。

このブログを御覧いだいている方の中にも、使ったことがあるという声もあるのではないでしょうか。

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ピンポン学生

初期のMTR(マルチトラックレコーダー)は、4トラック仕様(片面走行でA面B面のそれぞれL.Rのラインへ録音していき、録音した音源を再生しながら別のトラックに録音していく、時にはピンポンといって、例えば3本の録音されたトラックを音量、音質、左右の定位バランスなどをミキシングしながら残りのトラックへ録音していく技を使っていました。

MTRという機材がなかった(というか買えなかった)学生時代にはラジカセ(これはもう死語なのか)2台を使って、1つのラジカセに歌と演奏(このころはフォークギターで弾き語り)を録音し、曲を録り終えたらそれを再生しながらコーラス、ギターアレンジやシンセを鳴らしていき、もう1台のラジカセに録音していく、そしてまたそれを再生しながらギターソロなどを最初録ったラジカセで録音を繰り返していくという、これこそピンポン(いわゆるテーブルテニスのことです)作業だったなと思うわけです。

物が無かった時代、何だか戦後まもなくみたいですけど昔はそんなことをやっていたのです(当時同じようにやっていた方もいたのではないでしょうか)ただラジカセの性能にもよるんですけどカセットテープの回転数の微妙なズレ(ワウフラッター)があって、それが再生した時の音程に多少なりとも影響が出ておりました。

当然音質も劣化するのですが、チューニングも合わないところが出てきて何とか目立たないようにピッチを調整したりするのが面倒でしたね、でも音を重ねながら一つの曲を仕上げていく、そして完成した時は充実感というかいわばナルシストな喜びにひたっていたわけです。

学生時代、ラジカセ2台を使って録音した曲は40~50曲ぐらいありますかね。

初めてのMTR

それからようやくアルバイトやら社会人となってお金が貯められるようになってついに初めてのMTR、ティアックの「ポータ・ワン」(4トラック)を購入しました、当時価格は10万ぐらいだった(めっちゃ高!)と思います。

ドラムマシン「ローランドTRー707」を買ったのもこの頃でした、最初はとにかく嬉しくていろんなものを録りましたっけ、デモテープもこれでどんどん作っていきました。

まあハードに使えばそれなりに消耗していくわけで2年くらいしていからですかね、とうとうモーターがまわらなくなり万事休すとなりました。(その後友人にあげてしまい現在家には残っておりません)

次に購入したのが(生活を切り詰めて)ヤマハの4トラックMTR(機種名を忘れてしまいましたすみません)これも新品で10万くらいしました、先代のティアックポータ・ワンとタイプ的にほぼ同じような仕様ですが、レベルメーターがティアック製は針だったのに対し、ヤマハはインジゲーター点灯なのが若干の違いでした。

しかしティアックさんには申し訳ないですが、使ってみてヤマハのほうが操作性、性能、音質にわたり良かったように思います。(まあハードワークはハードワークだったのでこれも4年目ぐらいにモーター部がダメになりましたけど)

ヤマハのMTR2代目

そして満を持して登場するのが本題のヤマハ「MT8X」でございます。(イントロダクションが長くてすみません)

ヤマハ4トラックMTRの印象が良かったので、同じヤマハで新しい機材はないのかなと最寄りの楽器店にあったカタログを見て探していたところこれがあったのです。

しかも今度は8トラック(4トラックの2倍!録れるんですね、当たり前ですけど)そしてテープスピードはノーマルの2倍速!(今までの4トラックMTRはノーマルスピードでした)これはスピードが上がることにより時間当たりテープの録音面積に余裕ができ音質が向上する狙いとみました。

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当時は確か1990年代でありました、この時点では最新ものであったと記憶しております、ボツボツとパソコンが普及されつつあったのですが、楽曲制作ソフト的なものはまだポピュラーにはなってなく、後にMTR形式のマニュアルものでMD、CD、フロッピー、カードなどの記録媒体へ書き込む機材が世に出ておりました。

このMT8X、価格は記憶によると14万円くらいはしていたと思います、相も変わらず生活を切り詰めて貯めたお金で一括購入に踏み切りました。

最寄りの町で一軒しかない楽器店へ行き、当然店には在庫していないものなのでカタログを見せて取り寄せてもらうことにしました、その時に受付をしてくれた女性店員さんの服装が超ミニスカートでエロかったのを鮮明に覚えております。

注文から10日程経って入荷したとの連絡、自分にとっては大金の14万円を支払い、その分ワクワクしながら家に持ち帰るのでした。

本体もさることながら、まず見るべきなのは「トリセツ」取扱説明書ですよね。機材によっては相当分厚い教科書みたいなトリセツもありますが、このMT8Xについては40ページと今から思えばそんなに分厚くはないボリュームです、基本マニュアル操作だからなのでしょう。

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何といっても今までの4トラックの倍の8トラックで使えるのが画期的だったわけです。

説明書によると使用するカセットテープはクロームタイプを指定、そうなんですよ、当時のカセットテープと言えばノーマルタイプから始まってクロームタイプ(ハイポジション)メタルタイプとかグレードがあって金額も違っていたのです。いまでも辛うじてカセットは店頭にあったりしますが、さすがにクロームタイプ、メタルタイプはまず見かけることがありません。

そんなアナログ感満載の機材、ヘッドが特殊で8トラック分、録音部が分かれていて、ノーマルのヘッドに比べて録音面積が狭くなる分、音質を向上させるためにテープの回転速度を2倍にする工夫が施されています。

なので60分用のカセットテープの場合、片面走行で使用するので30分、2倍速で回転するので15分、つまり1本15分まで、4分ぐらいの曲だとせいぜい3曲までしかレコーディングできない計算になります。

昔は画期的だった

まず改めてミキシングコンソールから見てみましょうか、トリセツから伺え知れる主な特徴をあげますと

・ミニコンサートなどのPAミキサーとしてもクオリティーの高いサウンドを演出できる

・オートパンチイン、パンチアウト機能とリハーサル機能とでパンチイン・パンチアウトが容易にできる

ピッチコントロール搭載、約±12%の範囲でテープスピードを調整可能

・dbxノイズリダクションシステム搭載、大幅なノイズ低減効果とダイナミックレンジを演出

・RTZ(リターン・ツー・ゼロ)ロケーションメモリー機能(指定した箇所まで巻き戻せる)

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ミキサー部のコントロールとしてはトラック1を見た場合、上からGAIN(マイクやラインから送られる信号レベルの調整)、イコライザーつまみ HI、MID、LOWの3種類、AUX1、2コントロールつまみ(エフェクターに送り出す音量調節)、ASSIGNスイッチ(各信号をつなぐ4つのバスラインの切り替えスイッチ)、PANコントロールつまみ(左右の音量バランスをとる)、入力セレクトスイッチ(テープ、マイクラインの切り替え)、チャンネルフィーダー(入力信号のレベル調整)

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今はPCで手軽に録音、音の加工や編集ができるので説明書にあったようなマニュアル的な作業はもはや皆無といっていいでしょう、その分愛想なくなってしまったわけなんですけど

テープの幅は決まっているので、そこから8トラック分を独立して録音、再生させるので特殊なヘッドではあり、非常にデリケートなのでメンテナンスもそれなりに気をつけていなければなりません。

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説明書では10時間使うごとにクリーニングして下さいとあります、昔はカセットテープ式のクリーニングテープが市販で売られていましたが、今では入手困難な状況(メルカリ、ラクマでもそんなに点数は出品されていない感じです)それでも時々カセットテープを回す時があるので市販の綿棒で昔 買い置きしてあったカセットクリーナー液(それでも残りわずかですけど)をつけて掃除しています。

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また20~30時間使用するごとヘッドイレーサー(消磁器)で消磁してくださいとあります、ヘッドイレーサーというのはテープに当たる金属部分やヘッド部が長時間使用することで磁化され、特性劣化の原因となることから、それを取るためのアクセサリーが売られていたわけであります。

私もマクセル製のカセットイレーサーを昔から使っています、ボタン式電池で稼働するものです、普通にカセットレコーダーにセットして録音ボタンを押すだけなんですがボリュームをゼロに絞っておかないと「ビュッ!」と大きな信号音が鳴りますので要注意です、スタートして1秒以内で完了というシステムです。

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当時は、ドラムマシン→リズムギター→ベース→リードギター→シンセ→ボーカル→コーラスといった順序でデモテープを作成していました。4トラックだと確実にピンポンしてオーバーダビングしないとトラックが足りませんでしたが、ステレオ録音にさえしなければ単純に各パートに1トラックづつ録音していけば、余裕でトラックは足りるといった具合です。(実際にはドラムはステレオで録っていましたが)

再生や録音をする際のボタンは軽く押すだけでスタートできるよう、いかにも手動でヘッドを押し上げ的な仕組みではないのが画期的でした。

背面のインプットジャックも8トラック分の数は最低あるので、まあちょっとしたミキサー的に使おうと思えばできますね。

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このMT8Xを繁盛に使用したのは1990年代中頃あたりでして、その時に作った曲は私のプライベートアルバム「OVER DRIVE」にすべて収められています。

後にデジタル処理できるMTRを購入し、以降の曲ではMT8Xは使われなくなりましたが、かのオーストラリアの伝説的ロックバンドAC/DCもデジタルではなく、あえてウオームでダイナミックなサウンドを得るために、MTRテープによるレコーディング、ミックスダウンを行っていると聞きます。レコードとCD、データ音源の違いにもあるようにデジタルのほうが確かにクリアで鮮明なんですけど、レコードやテープいわゆるアナログサウンドの方が暖かみ、味、奥行きの深さがあると感じてしまうのは私だけでしょうか。

とはいえ、レコーディング、サウンドメイキング、加工、ミックスダウン、データ保存、配信などあらゆる面で現在のテクノロジーには勝てないのは確かですね。再び自宅で眠っているMT8Xを使用する日が来るかどうかは今のところ分かりませんが、MTRの歴史に爪痕を残した機材だったのではなかったかと思います。

参考までにMT8Xで録った楽曲を3曲、添付いたします。

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